Noor / N/LAB — Graphic

見えない関係性を、
線と面で図面化する。

人と人、感情と感情のあいだにある構造は、目に見えない。
けれど確かにそこにある——のように引き合い、のように領域を持つ。
Noorは、その見えない構造を製図する。

01
作品シリーズ:見えない関係性の図面Artist Statement

このシリーズは、人物や風景を描かない。
描こうとしているのは、人と人のあいだに生まれる見えない関係性である。

愛情、片思い、両想い、友情、別れ、希望、選択。
それらは本来、形を持たない。
けれど私たちは、誰かと出会い、近づき、離れ、重なり、すれ違いながら、自分の人生の構造を少しずつ変えていく。

この作品群では、感情を直接描かない。
涙も、笑顔も、抱擁も、物語の場面も描かない。
代わりに、線、矩形、円、余白、接続、断絶、交差、重なりによって、感情の奥にある構造を描く。

片思いは、届きそうで届かない線として。
両想いは、二つの形が完全には一致しないまま重なる構造として。
友情は、並走する経路として。
別れは、かつて接続していたものが静かに離れていく余白として。

このシリーズにおいて、余白は空白ではない。
言葉にならなかった感情、選ばれなかった未来、もう戻らない時間が残る場所である。

人は描かれない。
けれど、人の気配は残っている。

これは絵画というより、見えない関係性を記録した未知の図面である。
意味は、形そのものではなく、形と形が接続する場所に現れる。

02
文法Grammar

Line = Relationship線=関係性

2つの主題のあいだに生まれる引力・緊張・距離を、一本の線の角度と質感で記述する。まっすぐな線もあれば、震え、途切れ、重なる線もある。

Plane = Subject面=主題

主題そのものは面として領域化される。重なり率・境界線の質・面積比によって、主題同士の力関係や親密度が変化する。

03
シリーズSix Series, One Grammar
.c
回路シリーズ
Circuit

関係性を電気回路の配線図として描く。分岐、抵抗、ショート。

片思い(ダイオード)
片思い — Diode
.s
楽譜シリーズ
Score

関係性の時間的推移を、五線譜と旋律線で記譜する。

片思い(楽譜)
片思い — Score
.f
関数シリーズ
Function

関係性の増減・周期性をグラフの曲線として表す。

片思い(関数)
片思い — Function
.w
波形シリーズ
Wave

2つの主題の干渉・共鳴・打ち消し合いを波形で示す。

すれ違い(波形)
すれ違い — Wave
.m
多面図シリーズ
Multiview

面の数=登場人物数。正面・平面・側面から関係を読む。

片思い(多面図)
片思い — Multiview
.r
相対論シリーズ
Relativity

視点によって歪む関係性の距離感を、座標変換として描く。

両想い(相対論)
両想い — Relativity
04
インタビュー記事N/LAB編集部

Noorは経歴を公開しない。年齢、出身、本名、これまでの活動歴——そのいずれも、これまで一度も明かされたことがない。取材は対面ではなく、すべてテキストでのやり取りによって行われた。写真も、声も、ない。

それでも、本人の言葉でしか伝わらないものがあると考え、今回初めて、作品シリーズ「見えない関係性の図面」について話を聞いた。

――まず聞きたいのですが、なぜ経歴を一切明かさないのでしょうか。
明かさないことに、特別な意味を持たせたくはないんです。隠しているわけではなく、単に必要だと思っていない。誰が描いたかを知ることと、その絵が何を描いているかを理解することは、別の作業だと思っています。前者を知ると、たいてい後者を見る目が曇る。
――でも、見る人にとっては、作者を知りたいという気持ちは自然なことだと思います。
それはわかります。でも、それは絵そのものへの興味というより、安心したいという気持ちの方が大きいんじゃないかな。「誰が作ったか」が分かれば、判断を引き渡せる。経歴が立派なら良い作品、無名なら疑ってかかる。僕はその判断を、誰にも引き渡したくない。
――作品は人物も風景も描かない。なぜ「関係性」だけを描くのですか。
感情そのものは、もう十分に描かれてきたと思うんです。涙、笑顔、抱擁——そういうものは、写真でも絵画でも、これまでに無数に表現されてきた。僕が気になるのは、その手前にある部分です。なぜ人と人がそこまで近づき、あるいは離れていくのか、という構造の方。
――片思いを「届きそうで届かない線」、両想いを「完全には一致しない重なり」として描いていますね。この発想はどこから来たのですか。
たぶん、長いあいだ、何かを「見ていた」時間があったからだと思います。具体的に何を見ていたかは、ここでは言いません。ただ、人と人の間に起きていることは、本人たちが思っているよりずっと、形がはっきりしている。届く線と届かない線には、ちゃんと違いがある。それを見つけるのに、時間がかかりました。
――作品の中で、感情を直接描かないという制約を自分に課しているように見えます。これは苦しくないですか。
逆です。感情を直接描こうとすると、必ず大げさになる。涙を大きく描けば悲しみが伝わる、というのは嘘です。本当に伝わるのは、涙の手前にある、向きや距離や速度の方。そこだけを描く方が、僕にとっては自然なんです。
――今後、経歴やプロフィールを公開する可能性はありますか。
ないと思います。ただ、これから先、作品の数が増えていけば、僕について分かることも増えていくはずです。それは経歴としてではなく、線の引き方として。
――最後に、これから作品を見る人、あるいは手に入れる人に伝えたいことはありますか。
僕の経歴を知らなくても、この絵が描いている構造に、見覚えがある人はいると思います。それで十分です。
この作品シリーズ「見えない関係性の図面」は、N/LABより不定期に発表されている。