人と人、感情と感情のあいだにある構造は、目に見えない。
けれど確かにそこにある——線のように引き合い、面のように領域を持つ。
Noorは、その見えない構造を製図する。
このシリーズは、人物や風景を描かない。
描こうとしているのは、人と人のあいだに生まれる見えない関係性である。
愛情、片思い、両想い、友情、別れ、希望、選択。
それらは本来、形を持たない。
けれど私たちは、誰かと出会い、近づき、離れ、重なり、すれ違いながら、自分の人生の構造を少しずつ変えていく。
この作品群では、感情を直接描かない。
涙も、笑顔も、抱擁も、物語の場面も描かない。
代わりに、線、矩形、円、余白、接続、断絶、交差、重なりによって、感情の奥にある構造を描く。
片思いは、届きそうで届かない線として。
両想いは、二つの形が完全には一致しないまま重なる構造として。
友情は、並走する経路として。
別れは、かつて接続していたものが静かに離れていく余白として。
このシリーズにおいて、余白は空白ではない。
言葉にならなかった感情、選ばれなかった未来、もう戻らない時間が残る場所である。
人は描かれない。
けれど、人の気配は残っている。
これは絵画というより、見えない関係性を記録した未知の図面である。
意味は、形そのものではなく、形と形が接続する場所に現れる。
2つの主題のあいだに生まれる引力・緊張・距離を、一本の線の角度と質感で記述する。まっすぐな線もあれば、震え、途切れ、重なる線もある。
主題そのものは面として領域化される。重なり率・境界線の質・面積比によって、主題同士の力関係や親密度が変化する。
関係性を電気回路の配線図として描く。分岐、抵抗、ショート。
関係性の時間的推移を、五線譜と旋律線で記譜する。
関係性の増減・周期性をグラフの曲線として表す。
2つの主題の干渉・共鳴・打ち消し合いを波形で示す。
面の数=登場人物数。正面・平面・側面から関係を読む。
視点によって歪む関係性の距離感を、座標変換として描く。
Noorは経歴を公開しない。年齢、出身、本名、これまでの活動歴——そのいずれも、これまで一度も明かされたことがない。取材は対面ではなく、すべてテキストでのやり取りによって行われた。写真も、声も、ない。
それでも、本人の言葉でしか伝わらないものがあると考え、今回初めて、作品シリーズ「見えない関係性の図面」について話を聞いた。